荒野を切り拓いた 偉大なる森の創設者-㊤【歴史編】
「新聞は大量の紙を使う。環境破壊を毎日繰り返している仕事だ。植樹をして、森を造っていけば、カーボン(二酸化炭素)をオフセット(相殺)できる」―。十勝千年の森の創設者、林光繁(十勝毎日新聞社顧問)がそう思い立ったのは1987年のことでした。
2008年7月のグラウンドオープンからこれまでの来場者数は、すでに50万人以上。国内だけでなく、ガーデニングの本場、英国、シンガポール、韓国の著名人をはじめ、北京大学の学生など世界中から園芸に関心の高い人たちが訪れます。林も今でも週に一度は足を運び、世界一のガーデンを守り続けています。◎一大プロジェクトのはじまり 十勝千年の森の構想が動き出したのは今から30年ほど前のことです。林が初めてこの土地を視察したとき、高さ2メートルほどのクマザサが生い茂り、森の中に入ることさえできませんでした。それでも、奥から聞こえてくる川のせせらぎの音を聞いたとき「たくさんの人を惹きつける場所だ」と直感しました。もちろん400ヘクタールもの広大な土地に、手を加えることは容易なことではありませんでしたが、当時、十勝毎日新聞社の代表取締役社長だった林は「新聞にはたくさんの読者がいる。その人たちの癒しになる場所を作りたい」という強い思いがあり、土地の購入を決断したのです。
◎本場の有名ガーデンデザイナーとの出会い 思い立ったらすぐに行動に移すのが林の信条です。「持続可能な社会をつくる」をキーワードに自ら構想を練り、友人だった造園家の高野文彰氏(高野ランドスケーププランニング代表)に相談します。すると、計画はとんとん拍子で進んでいきました。さらに同氏に紹介された世界有数の英国人ガーデンデザイナー、ダン・ピアソン氏との出会いが夢の実現を加速させていきます。本場で培った高い実績と才能だけでなく、真面目で誠実な同氏の人柄をみて、林は「この人となら一緒にガーデンを作っていける」と確信したのです。◎信念が実って「世界一」の評価 人の手が入らず、荒れた森のササを刈って林道を整備し、花苗をひとつひとつ植えていく庭仕事。「10年以上たてば非常にきれいなものになる」という林の信念は、2012年に、世界各地の優れた庭園デザインを表彰する英国のガーデンデザイナーズ協会賞において、最高位となるGrand Award(大賞)とInternational Award(国際賞)の受賞という形で実を結びました。また同時に、審査員からは「世界で最も美しい庭」とも評されました。◎パワースポット効果で健康維持 林にとってこの森は、心身の疲れを癒すことができる「パワースポット」です。地下には空気と水を浄化する作用がある花崗岩「麦飯石」が一面に眠っています。樹木からは、殺菌効果によって免疫力が高まるとともに、癒しをもたらすと言われているフィトンチッドと呼ばれる成分を放出しています。そのため、疲れた日や精神的にダメージを受けたときに森に入ると、「精神的、肉体的に安定し、カゼを引くこともない」と話します。◎30年前の構想を未来にも引き継ぐ 30年前に描いた構想通りに作り上げられて来た庭。しかし、千年という悠久の時間軸でいえば、まだスタート地点にすぎません。今後さらに追求していく必要があるスポットとして、林はメドウガーデンとフォレストガーデンの2つを挙げます。
メドウガーデンに、さらに草花を取り入れることで、季節ごとにひとつの植生から次の植生へと連なって咲いていく変化を楽しむことができるようになります。
フォレストガーデンは、従来のカラ松だけの単層林から色々な樹種を植える複層林に変えて行っています。そうすることで林は「たくさんの動植物が暮らすようになり、将来的に大きな森に成長していってくれる」と話します。
自然は人間の一生ほどの短い期間では、真の姿を見せてくれません。長い時間をかけて、寄り添っていくことで、きっといいものを返してくれる。林はこの森と出会ったときの想いを決して忘れることなく、そして、これからも「人間と自然の出会いの場を作っていきたい」と語ります。(つづく)